水玉の行方 (作 鈴音彩子)

ひとりもの かたり部-3 でございます。


「水玉模様を描いて」

もしそう言われたなら、マルをいくつ描きましょうか。

大きさ、色、余白の広さはどんな風にしましょう。

たかが水玉?されど水玉?

一つひとつの水玉には命がある、

かも、しれません。

ここはとある国のとある街の手芸用品店。

沢山の生地が積まれていました。

どの生地もその良さをアピールし、買われる時を待っていました。

賑やかな店内の一角にある水玉柄のコーナー。

重なった何本もの生地の一番下に、白地に黒の水玉模様のひと巻がありました。

将来はマダムのスカートになるのが夢、というひと巻でしたが、

残念ながら一番下に埋もれているため、なかなか人目につきません。

他の生地に押しつぶされ、もう長い事苦しい日々を過ごしていました。


ある晩の事です。

その生地の、数えきれない位の黒い水玉のうちの、

たった一粒の黒い水玉が・・・脱走しました。


未来に希望が持てなくなったと、泣きながらどこかへ行ってしまいました。

生地上の他の水玉たちは、さぁ大変!

ぽっかり空いた場所を何とか埋めようと全員が大移動。

少しずつずれると、規則性が失われどこかが窮屈になりました。

規則性を重んじると、どこかがぽっかり空いてしまいます。

何とか出来ないかと試みるのですが、どうにも上手くいきません。


誰も、一粒が居なかった事にはできませんでした。


やがて手芸用品店に光が差し込み、朝になりました。

水玉のコーナーの一番下。白地に黒い水玉のひと巻は、

真っ白な布に変わっていました。

大勢の黒い水玉たちが一粒の水玉を探しに行ったのです。


ここはとある国のとある街の手芸用品店。

今日も一日が始まります。



ひとりもの かたり部 鈴音彩子

「水玉の行方」2018.4

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