ひとりと、ひとりと、ひとり(作 高柳しい)

仮面を持った男が、森を歩いていた。木彫りの仮面は、目の周りは黒く、おおきな口のまわりは真っ赤に彩られている。それだけを持って、男は歩いていた。わたしにはもう何も残っていないけれど、この仮面で、誰かを幸せにしてやれたらなぁ、と。

卵を持った男が、森を歩いていた。真っ白で、手のひらに収まる卵を握る。それだけを持って、男は歩いていた。わたしにはもう何も残っていないけれど、この卵で、誰かを幸せにしてやれたらなぁ、と。

ダイナマイトを持った男が、森を歩いていた。何年も開けてない倉庫で見つけた、ビルの取り壊し業者をしていた父のダイナマイト。それだけを持って男は歩いていた。わたしにはもう何も残っていないけれど、このダイナマイトで、誰かを幸せにしてやれたらなぁ、と。

森の真ん中に、そこだけ樹木の生えていない開けた野原があった。三人はそこで出会った。
三人はすぐ、互いの顔を見るなり意気投合して、肩をよせあった。

仮面の男は、手始めにふたりを笑わせようと仮面をつけて踊ることにした。かつて町の人が集まって自分の踊りに拍手してくれた夜を思い出す。あぐらをかいて野原に座るふたりは、男の踊りに手拍子をうち、拍手した。
仮面の男は、胸がいっぱいになった。
卵の男は、ふたりの腹を満たそうと卵をわろうとした。が、地面に叩きつけんとする直前に「ぴぴぴ」と声がして卵を見ると、淡いオレンジ色のくちばしがほんの少し、白い殻からのぞいていた。卵の男はそれを両手であたため、残るふたりもそれぞれの両手を卵に添えて、あたためた。ほどなくして殻を破り、やさしい黄色の毛に包まれるひよこが現れた。卵の男は、胸がいっぱいになった。

ダイナマイトの男は、ポケットからマッチを取り出して、ぼたぼたと涙を流した。「死のうと思って、ここへ来たんです」。ダイナマイトの男がそう言うと、残る二人は「わたしもです」「わたしもですよ」と男の手をとった。
仮面の男が言う。
「あなたのダイナマイトで、死ねたらいいと思ったんです。最後に少し、人を幸せにしてから。そしたら、もう死ねなくなりました。わたしの踊りを見て、喜んでくれる人がまだいるとわかったのです。」
卵の男が言う。
「わたしもあなたのダイナマイトを見て、安らかに死ねると思いました。わたしにはもう何も残っていないけれど、今は、この小さな鳥を残して死ねません。」
ダイナマイトの男が言う。
「わたしは人生の最後くらい、誰かと一緒にいたかった。この森をさまよう人ならきっと、わたしのダイナマイトで一緒に死んでくれると思ったのです。けれど、もうこんなものはいりません。」
マッチをすって、森で集めてきた木々に灯す。暗くなってきた野原を橙色の光が照らした。
卵の男の両手の上でふわふわのひよこがよたよたと歩いた。
ぴちぴちと鳴く度に、三人は微笑み合い、そして少し泣いた。

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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