横文字立て士 (作 高柳しい)

「今回の案件では山下くんがイニシアティブをとって各社にアピールして…」会議中、額の輝く部長の口からふいに放たれた横文字に、背筋がぞわぞわする。新しいビジネス用語集でも買って感化されたんだろうか、このおっさんめ。
心の中で毒吐きながらも「はい、わたくし山下が主導権をとりまして」と"正しい"日本語に言い直してはきはきと受け答える。「イニシアティブ」の軽々しさに比べて「主導権」のなんと堂々たる響きよ。部長も他の社員も、僕の言い換えに気づいた様子はない。悔しいが、まだまだ活動が足りていない証拠だ。
なんとなく横文字を使う人間が、僕は心底気持ち悪い。けれど世間は安易な横文字に溢れている。だから僕だけはバカみたいな横文字を知性溢れる日本語に、つまり縦に言い直す活動を続けている。その日々の活動をTwitterで「横文字立て士」として報告している。
《今日も部長が「イニシアティブ」と言ったので「主導権」と言い換えた。横文字を使えば部下がついてくると思っているのだろうか。》仕事を終えて電車の中で打ったツイート。フォロワーのいない自分にとってはただの独り言だが、毎日の成果をつぶやくのはすっかり習慣となっていた。
日付が変わって1時頃、そろそろ寝ようかとベッドに横になった。iPhoneの目覚ましを確認しようとすると、Twitterでおなじみの青い鳥アイコンに通知マークがついている。なんだろう、とアイコンを押すと、信じられない通知が来ていた。
「折り紙ウサギ さんがあなたのツイートをイイネしました」
「折り紙ウサギ さんがあなたをフォローしました」
心臓が高鳴った。
"折り紙うさぎ"のプロフィール画像には、ピンクの折り紙でできたウサギが二羽並んでいた。特に自己紹介もツイートもない。けれど、きっと女性だろうということは画像から明らかだった。
自分のツイートを、イイネしてくれた人がいるのだ。毎日似たようなことしかつぶやかない自分を、フォローしてくれた人がいるのだ。ここに。
iPhoneを枕の横に置いて、僕は目を閉じた。
明日、部長はどんな横文字を繰り出してくるだろうか。
期待を胸に、僕は眠りについた。

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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