【赤の少女と白い虎】 22. 移ろいの波紋 (作・あだちあきこ)


ふっと目を開くと、真っ暗な中でわたしはうつ伏せで浅い水たまりにつかっていた。

重い体と、ひんやりとした大地の硬さを頬に感じた。目の前に指が見え、少しだけ動かした。口の中に水が入ってくる。 鉄の味に舌が痺れた。

この時、わたしの体は自分自身の血の海に横たわっていたと後できいた。 遠くから人の声が聞こえたような気がして、そのまま再び意識を失ったのさ。


これが2頭の龍の話さ。


◇◆◇


姫はふーっと深く呼吸を吐いた後、グラスの水をゆっくりと飲んだ。

「おばあさま」にこっとして続けた。

「龍の話なのに、爪と鱗しか出てこないなんて」 


言葉に反して、その頬は淡く桃色に染まり、目がひときわ大きく輝きを放っていた。 

「ふふ、そうだな。でもこれが本当の龍の話なのだよ」 

谷守りの老婆はそういって、ゆったりと葉巻のタバコをくゆらせた。

 煙が風に乗り、ゆっくりと空に昇っていく。


「兄たちには話さぬようにな」 こくり、と姫はうなづいた。

「ねえ、おばあさまはそれからどうなったの?」 

「それから? そうだねえ……」 遠い目で噛みしめるように谷守りの老婆は続けた。

 「血まみれで横たわっていたわたしを見つけたのは、同じ年の言の葉つかいの男の子だった。

見つけた時はほとんど呼吸をしていなかったと教えてくれたよ。

腸のほとんどを失くしていたのだけれど、その子のおかげでかろうじて命がつながったのさ」

 「よかった」 赤い実をほおばりながら、姫は笑った。

 「お師匠はなんて?」 

谷守りの老婆はふふ、と笑った。

「もちろん、勘当されたさ。でもあまりにも体の傷が深くて癒えるのに何年もかかってしまったからね。 その間はずっとお世話になったんだよ。

誰も禁忌を犯したわたしの世話をしたがらなかった。でもわたしを見つけた言の葉つかいの子だけは違った。食事や手当を何年もかけて世話してくれたんだよ」

 その瞬間、聞いていた姫の顔がパッと輝いた。

「……もしかすると」

谷守りの老婆が口を開こうとしたその時だった。


ドーンとした地響きとともに、宮殿全体がぐらりと揺れた。 

とっさに谷守りの老婆は姫を抱き寄せ、宇宙の風読み師が2人におおいかぶさった。 遠くから人の叫び声が響き渡るのが聞こえてきた。


〜つづく

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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