【赤の少女と白い虎】 21. 龍の息吹 (作・あだちあきこ)


「対となる言の葉を落としているのだ。

それは開けたものを閉じる鍵のありかだ。 

お前がつかった本にはもともと入っていなかった。

それを書いた者の世界の理(ことわり)が不完全だったということだ。

 そしてそれがないということは、ここにいる我らがいるべき空間に帰れぬということ」

 

「帰れないとどうなるのですか?」 

その瞬間ざわめく空間がピタッと静まった。

 「……我々はこの次元にとって異質な存在。早々に消失するだろう」 あの声がゆっくりと区切るように答えた。 

一瞬飛んでくる、と覚悟した怒号は一切起きなかった。 


この時に初めて、自分のしたことがどうやら想像以上の過ちだったということに気づいたのさ。

 「そうだ。お前のいた世界も我々の存在も全ては終わる。跡形もなく消え去る。最初から存在しなかったことになる」 

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、頭が割れるほどの叫びが一気に響いた。


 「もう終わりだ」「ここまできてこのザマだ」「人間には失望しかない」「愚かな生き物め」 

「でも今回は少し違う」再び凛とあの声が響く。 


「確かにこの娘は愚かしい。自分の欲を満たすために力を求め、結果として破滅したが」

 その声をさえぎってわたしは思わず叫んだ。 

「ごめんなさい! わたしに命はいりません! だから、だから」

 その瞬間、フッとさげすむような笑い声が巻き起こった。

 「お前の命ごときでなんとかなるとでも?」「本来、人間にそんな価値はないのだ。なんと傲慢なことを」「宇宙の全てをかけて閉じるしかあるまい」 

あらゆる角度から矢が飛んできたかのような衝撃に、わたしの体は貫かれた。

 直後、打って変わって柔らかいエネルギーが流れ込んできた。

「まあよいではないか」 

あの声がこう話しだしたのだ。


 「こうやっていても何も始まらぬ。ただ終わりゆくのみ。この小さき娘の体であの門を開いたということは、閉じる力もあるはずだ。 

見よ、この娘の光を。あちら側の者ではないのはみなもわかっているだろう。 ひとつ、この娘に任せてみようではないか」 

「正気か?」「そんな面倒なことをせずとも」 

激しい反論の嵐の中で、あの声は言い放った。 

「確かにその方が早いし円滑だ。

だが私は正直、それにも飽きた。

今まで見たことのないものを見てみたいと思う。そう思わぬか?」 

「そこまでの価値があるとでも?」冷たく嘲笑う言葉が飛んだ。

 「価値などない」その声ははっきりと言い切った。 

「だから価値をつけてみたい。どうだ、見てみたいと思わぬか?価値とやらを」 

「ふん、くだらぬ」「でも面白そうだ」「無駄だ」「しかしどうせ無駄ならみたことのないものを見てみるのも一興」 たくさんの声が騒音のように響き渡る中で、わたしは何もできずただぼんやりと佇むしかなかった。 


「娘よ」 

ひとしきり続いたざわめきが小さくなり、あの声が聞こえてきた。

 「本来であればここで収縮で消滅する宇宙がここにある。

だがお前に我らの叡智を託そうと思う。

それがどうなるのかは誰にもわからぬ、未知の選択だ。

我らはここで消失するが、うまくいけばお前をあの宇宙へ戻すことになるだろう。

そうなったなら、世界がどうなるのかを我々に見せるがよい」 

「……消失するのになぜ見れるのですか?」

 「少し眠るようなものだ。いずれまた目が開く」 

「言っていることが全くわかりません」 

「わからずともよい」 そこへ別の声が割り込んだ。

 「そろそろ限界だ」 


あの声がひときわ高く響いた。 

「みな、準備はいいな。いくぞ」どんどん声が小さくなっていく。 

わたしは慌てた。 

「待って! わたしはどうしたらいいのですか?」

 「それをお前が決めるのだ。さぁ、お前が欲しがっていた龍をおいていくことにしよう」

 目の前に大きな赤い爪と、青い鱗が一枚浮かんだ。


 「世界の礎になるのだろう?

 ならば、なってみせよ」 


その瞬間、爪と鱗がこちらに向かってものすごい勢いで向かってきた。 

わたしはそのまま気を失った。


〜つづく

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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