【赤の少女と白い虎】 11.家族の輪 (作・あだちあきこ)


真っ白な光のテラスから笑い声が聞こえてきた。 

 「おや、ようやく姫のお出ましだ」 

国王が美しいグラスを片手に微笑んだ。 

 「お前にしては早起きじゃないか」 

隣で、皇太子がいたずらっぽく笑った。

 「だいたい毎日寝るのが遅いんだよ」 「いいないいな、僕もそれがいいのにさ」 

言いたい放題の兄たちの目の前に、色鮮やかな果実とジュースがいくつも並んでいた。


 「さぁ、ご挨拶を」  

促された先に、銀色の長い髪の老婆が座っているのが見えた。

 「・・・はじめまして。ジョーイです」  

姫は腰を軽く落として挨拶をした。  

ゆったりとした白いワンピースに身を包んだその人は、幸福そうにぶどう酒を飲んでいた。 

 「・・・姫、この方はわたしの母、お前のおばあさまだよ」  

国王が静かに添えた。

「おばあさま?」    

姫はずんずんと近くに歩みより、もう一度言った。 

 「おばあさま。初めまして。ジョーイです」 

 「大きくなった。 美しい目だ」  

老婆はそういって、姫の頬に手を添えた。 姫の黒い瞳の中に、美しい銀の髪が揺れていた。  

老婆は続けた。 

 「おばあさまと呼ぶのは、家族でいるときだけ。人のいる場では、谷守り、と私を呼びなさい。わかったね」 頬から手をゆっくり離しながら、老婆は言った。

 「谷守り・・・」 

姫は胸に染み込ませるようにつぶやいた。 


 「姫、ここへ」   

王妃が空いている椅子を引いて微笑んだ。 

 「おばあさまの話は、すごくすごく面白いんだ」  

一番年の近い王子が、興奮したようにまくしたてた。 

 「ねえ、おばあさま、その2頭の龍はどうなったの?」 

 「おや、聞きたいかい」 「わたしも聞きたい」  

姫は大きな赤い実を頬張り、ワクワクしながら答えた。 

 「よし、いいだろう。  赤い龍はこう言ったのだ。もし・・・」  

みんなで笑いあった時だった。 


 「失礼いたします」 声の先に、宇宙の風の風読み師が立っていた。 

国王は何も言わず、風読み師に目で返した。

「わたしは行くが、お前たちはゆっくりしていなさい」 「では父上、わたしも」  

皇太子の言葉にうなずいた国王は、口のはしをナプキンで拭った後、老婆に会釈をした。 

 「母上、またのちほど」 

そうして残された2人の王子は何も言わず、静かに座っていた。  


「どうしたの。まだパンも残っていますよ」 王妃は言った。

「僕も部屋に戻ろうかな」 末っ子の王子が、目をふせて立ち上がった。

「なら、昨日の続きをしようか。 まだ勝負はついていなかっただろう?」  

兄が駒を指す仕草をして笑った。 

その言葉に「うん!」と目に一瞬で輝きを取り戻した王子は、「兄さま、いこう!」とはしゃいでテラスを駆け出した。 

「・・・頼むわね」 

 王妃の言葉に、兄は軽く微笑み、席を立った。 


 テラスには、王妃と姫と谷守りが残された。

「みな、いい子だ」  谷守りの老婆は静かに言った。

「はい・・・いつもこの子たちに支えられております」 

王妃は姫を見ながら穏やかに答えた。 だがほどなく、王妃の侍従が迎えにきた。

「母さまは行かなくてはいけないけれど、ゆっくりとお食べなさい」 

姫の頭をやさしくなで、義理の母に会釈をし、奥に控える風読み師の顔を見てから、王妃は静かに去った。  


テラスは嵐が去った後のように、一気に静寂に包まれた。 

木漏れ日のすき間から、鳥の声が響いている。 

姫はもぐもぐとバナナをほおばり、谷守りの老婆はグラスを片手に目を閉じ、鳥の歌を聴いていた。 

しばらくして、谷守りの老婆が風読み師に言った。

 「何ごとだ」 

「昨晩の兵士が目覚めたとのこと」

「そうか」 

姫は正面からじっと、2人のやりとりを聞いていた。 


 〜つづく

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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