まるまる(作 鈴音彩子)

ひとりもの かたり部7話目でございます。


***

泣き出しそうな空の下

からだにムチ打って我が家へ向かう。

もしも無事に玄関へ辿り着けたなら・・・

  そうだな、まず最初にビール。

  それからソファーに倒れ込もう。

  それから、それから・・・

安らぎの妄想は限りなく広がる。

住宅地の、あの先の角を曲がれば我が家だ。

  ゴールまでの道のりはレッドカーペット。

  一歩一歩進むのだ。

足もとに、はて?

まるの羅列。

  ケンケンパか、懐かしい。

  近所の子たちがチョークで落書きをしたのかな。

コンクリートの地面いっぱいに描かれた色鮮やかな世界が

夕方の街灯に照らされている。

周りに誰も居ない事を確認し、やってみる。

ケンケンパ、ケンケン、あっ。

ジャンプした弾みに鞄から荷物がこぼれ落ちる。

ケンパは止めて、まるを踏んで歩く。

まる、まる、まる、まる。

まる、まる、まるまる・・・

  沢山のまるで満ちたら

  圧縮袋のような今の環境はかわるのかしら。

まる、まる、まる、

  あれ?

すぐに着くはずの我が家が、まだ遠くに見える。

まるにとらわれながら早足で進む。

まる、まる、まる、

  あと少し。

まる、まるまるまるまるまる、

やっとの思いで角を曲がると、ケンパは消えた。

そして我が家の玄関の前にバツが描いてあった。

小さなバツなのに、

私に覆いかぶさるかのように、

どんどん、どんどん、巨大化するように感じた。

  バツにのみ込まれてしまう!!

声にならない悲鳴をあげ、慌てて家に入った。

そして水を入れたバケツとたわしを武器に、バツへ立ち向かった。

ごしごしごしごし

バツと私の闘い。バツはどんどん巨大化する。

ごしごし、ごしごし

  私の事をよく知らないない奴に、全否定されてたまるか!

ごしごしごしごしごしごしごしごし

  評価がなんだ、性別がなんだ、キャリアを馬鹿にするな。

  今の選択を否定されてたまるか。

たわしをぐっと握りしめた途端、

どしゃ降りの雨が降り注いだ。

あっという間にずぶ濡れになった。


足もとのバツは、私が闘わずとも自然に消えていく。


雨粒は地面に触れたほんの一瞬、何かを描いていた。

まる、まる、まるまるまる


世界はまるで溢れている。


ひとりもの かたり部 鈴音彩子

「まるまる」2018.8

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

0コメント

  • 1000 / 1000