ひとりもの かたり部6話目でございます。
今回はシリーズです。その1 ~ その7 まであります。
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『孤独』
その男は、つくづく嫌になった。
いっそ姿が見えるなら、殺してしまいたいとさえ思った。
風虫の話である。
炎天下の中、都会という砂漠で、
人々が歩く姿をただただ見ていた。
眼の端から端へ過ぎていく人たち。
どこかからやってきて、どこかへ向かい、どこかへ帰る人々。
沢山の人が居たが、
自分や自分と似た人は誰一人として居なかった。
ふと 風虫の唄を口ずさんだ。
通り過ぎる人々は、突然歌いだした男を不審な目で遠巻きに見ていた。
その中で、
自分の行方はわからないものなんだ、と男は悟った。
立ち上がり、砂漠の中のオアシスを求めていつもの靴で歩き始めた。
足取りは軽やかである。
その男は、今日もどこかの大地の上に居る。
風虫と共に。
(つづきはかぜのみぞしる)
ひとりもの かたり部 鈴音彩子
「風虫の唄‐その7 孤独」2018.7
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