風虫の唄 その1(作 鈴音彩子)


ひとりもの かたり部5話目でございます。

今回はシリーズです。その1 ~ その7 まであります。

***

『心扉』

その男は風虫を飼っていましてね。

ふらりとやって来ては心扉を開けてそのままスッと居なくなるんです。

どんなに頑丈な扉でも開けてしまうのですよ。

開け放しにされた人にとってはたまったもんじゃないのですがね、

まぁ、その男は何も意識していないのです。

(だって全ては風虫のせいなのですから)

「あんちゃんは?」

子どもたちがその男を探しに来た。

「駅へ向かって行ったよ」

「えー!」

先頭にいる子どもは空き缶を握っている。

「せっかく缶蹴りしようと思ったのに」

見るからにしょぼんと小さくなった。

そう、子どもたちは悟っていた。

あんちゃんと呼ばれた

かくれんぼをして居なくなるのが得意な男が

その街から出て行った事を。

「そういえばさ」

鼻水をすすりながら、一人の子どもが言う。

「楽しいことは次々に創ればいいってあんちゃんが言っていたよ」

「そっか」 「そうだよね」 「行こう」

子どもたちは走り出す。

風が、開け放たれた扉を通り過ぎる。


その街から随分離れた所で、男は車窓から海の向こう側を見ていた。

風虫はごきげんに唄っている。


(つづきはまたらいしゅう)


ひとりもの かたり部 鈴音彩子

「風虫の唄‐その1 心扉」2018.7

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

0コメント

  • 1000 / 1000