脳みそがスイカになった男の話(作 あだちあきこ)


本作品は変集部からのお題をもとに各部員が創作したものである。


 ① タイトルを「脳みそがスイカになった男の話」と題して作品を書く。

 ② 作中に、銀行強盗、手紙、カーネルサンダースの言葉を1ないしは2は利用すること。 

 ③ 原稿用紙は1〜5枚程度。(400字から2000字まで) 

 ④ 下手でも良いからご自身で絵をつけること。(本作品においては、偏集部からイラストをつけることは一切しない。)

 ※創作を楽しんでみよう。 

 

。・。・。・。・。・



いつもの道が、やけに汗ばむ。 



昨日から食欲が落ちて、甘い飲み物ばかり飲んでいる。

それが急激に湿度の上がったサインだと気づいたのは、最近のことだ。

日本の梅雨は、俺の体力を目減りさせる。


降りそうで降らない薄暗い雲をみていると、胸でぴちょん、と水滴の音がした。

どうにも嫌な気持ちになるのは、湿度のせいだけでもない。 



あの日、俺は相当浮かれまくっていたと思う。



放課後に友達とバカ騒ぎをして、いざ帰ろうとした時のことだ。

靴箱をあけると小さな手紙が入っていた。

開くと「好きです。つきあってください。T子」とだけ書かれていた。


なんだよ、あいつ。


T子はクラスの中でもよく話す、数少ない女子の一人だった。

なんだよ、かわいいところあるじゃん。


ぶっちゃけ、俺の顔はかなりニヤついていたと思う。

そうか、そうだったのか。

別にそれほど好きでもなかったけど、そういうことならまあ、考えてもいい。



次の日、休み時間の隙をついて、一番前だったあいつの席に近づいた。机にひらりと手紙を投げて、ぶっきらぼうに俺は言った。

「付き合ってもいいぞ」


ハッと顔をあげたT子の顔が今も忘れられない。

目を見開き、まるで未知の生きものを見るようなあの感じ。

そのままT子は机に突っ伏して、大きな声で泣き始めた。


え、なに?なに?なに?

なんで?  


あっという間に人だかりができ、教室は一瞬でカオスに包まれた。

女子の制服の壁に阻まれ、T子の姿はもはや見えない。


俺はというと、頭の中はウルトラパニック状態。それでも平然な顔を保ち、なんとか教室の隅っこに退避して眺めていた。

先生も加わり、ようやく事情があきらかになった。



手紙を書いたのはT子ではなかった。



T子を嫌う女子のグループが、T子になりすまして俺に手紙を書いたという。T子は俺の言葉でそれを一瞬で悟り、ショックで泣き出した。

起こったことは以上だ。


それからのことは何も覚えていない。 

きっと学級会的なものもあっただろう。先生もコメントしただろう。

誰が書いたのか、判明したのかしていないのか。それさえも記憶にはない。 どうやってそれからの日々を過ごしたのかさえも。


それからT子と話すことは二度となかった。

きっとクラスの日常はそのまま、平穏無事に過ぎていったに違いない。これほどまでに、何ひとつ覚えていないのだから。



なんで俺だったんだろう。 まあ、T子とよく話していたからだろう。

にしても。にしてもだ。 

俺のこの、まんじりともしない気持ちはなんだ。

どこにぶつけたらいいのか。

いや、ぶつけずとも、どう着地させたらいいのか。

いまなら、めちゃくちゃ考えてしまう。 いや、いまだからか。



中学生だった俺は、あの時何を感じていたんだろう。

きっと15歳なりにたくさん思ったのではないかと推測する。

その感情がどこに格納されているのか、いまはもう自分でもわからない。


まあ、いい。 



平凡だと思ってきた自分の人生、こう考えると意外にそうでもない。

こんな経験したやつ、他にいるか?

いるなら会って飲みたい。

いや、俺飲めないから、ウーロン茶で語り合いたい。

そんで一緒に笑い飛ばす。それでいい。

それがいい。

そんな時間があってもいいんじゃないの、俺って。



駅が見えてきた。


いつの間にか、Tシャツがぺったり背中に張り付いている。

今年の梅雨はまだ始まったばかりだ。 

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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