ヨモギとオレンジ (作 若林理恵)

その日の頭上には、青い空が広がっていた。
わたしは、オレンジをかじると空を歩くことができる。
自分でもなぜだかはよく分からない。

気づいたのは小学生のころだったけれど、
家族にすら内緒にしていたし、ひとりで散歩をするのは夜だけだった。

オレンジをかじっては歩く練習をして、高校生の今では自由に動けるようになった。

特に何をするでもなく、夜空を散歩するだけで十分満足していたけれど、
いつか、昼中、太陽の下で自由に空を歩くことに憧れていた。


ある日の放課後、男の子に出会った。
ふと、人が夕焼け空を歩いているのを見かけたのだ。

「オレンジかぁ。僕はヨモギだったよ」

見かけた直後、わたしはとっさに声を掛けていた。
“ヨモギ”は同い年くらいの、くしゃっと笑う男の子だった。

わたしたちが仲良くなるのに時間はかからなかった。
ほとんど毎晩、真っ暗な夜の空を散歩し、空に寝そべったり、アイスを食べたりした。

これ以上ないくらい夜が待ち遠しくなった。


「明るいときに、一緒に空を歩きたいね。夏が終わっちゃう前に」

それはおそらくお互いが思っていたことだったけれど、
実際に言い出したのはヨモギの方だった。
その声に甘酸っぱさが混じっているのをわたしは感じ取った。

その会話から数日後、わたしたちは約束通り、課外授業をサボった。

太陽が照りつける正午。
わたしとヨモギは学校の屋上に立っていた。
ヨモギは眩しさと緊張を和らげるためか、サングラスをかけていた。

わたしはヨモギに聞いた。
「空に行ったら、何する?」
ヨモギは微笑んだけれど、返事はしなかった。

わたしは大きく息を吸い、ヨモギの手を繋いだ。


わたしは、手に持ったテニスボール大のオレンジを皮のままかじった。
そして地面を蹴り上げ、透明の階段が生まれたように、
大きく広い青空めがけて駆け上った。

【一人映画部】 若林理恵(Waka)


からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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