向かう世界、来る風  (作 田澤 恭平)

                                                                   (絵 丸野まる)

 ブオウォオォ…

 プロペラ音が足元の水たまりに波を起こしている。運動靴が押し寄せる水を吸い込む。

 いつもなら水の重みに苛立ちを覚えるが、今日は違う。

 気配を感じて、記者達に手を挙げる。

『ジョン=アルベルト教授 新大陸へ果敢なる挑戦』

 こんな見出しが夕刊に載るのだろうか。私がその記事を読むのは随分と先だ。いや、若しかしたらその記事を拝むことがないかもしれない。新大陸【アルゲア】では何が待ち受けているのか分からないのだ。

 待ち受ける未知なる脅威による死。その英雄的ピリオドに口元が緩む。

 新大陸を開拓し、偉業を成し遂げて帰国することが目的だ。だが、甘美なる死が待っていると想像すると、恍惚感が満ちてくる。

「教授!」

 振り向くと下士官が敬礼していた。時間だと言う。

 記者達に気持ちを残すような心持で、ゆっくりと飛行船へ歩みを進めた。

 ヒトが三大陸に生活圏を広げて百七十年。三大陸を結んできたのが飛行船である。貨物からヒトまで幅広く使われている。三ヵ国、つまり三大陸に合わせて、赤、青、黄の三色に分かれている。空を見上げると三色の飛行船が必ずと言って良いほど目に入る。

 今回、私が乗船する飛行船は銀だ。特注である。

 強い日差しが船体を輝かせている。この光は未来を表しているのだろうか。それともこの瞬間を照らすスポットライトなのだろうか。

 水滴が顔に当たった。雨だ。儲かった。

 空を見上げた。目を瞑った。太陽が眩しかったのか、目に雨が入るのを防いだのか、それは分からない。儲かった。そうおもった。

 天気雨は晴れと雨の良いとこ取りだ。門出に相応しい。

 人生は二択である。【アルゲア】に行くのか行かないのか。生きるのか死ぬのか。

 人生は分かりやすい。

 この世界はたまに二択ではないものを提供する。晴れか雨かではない。

 飛行船へと足を運ぶ。靴が湿っている。重い。

 歩を進めた。

 行くと決めたのだ。目を高揚感に向け、靴の重みは無視した。 

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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