ポスト vol.8 (坂尾菜里)

 

  また一つ、2700ケルビンの灯りが消えた。



  アルコールが血に乗って全身をまわっている。手足の先がいつもより暖かく、身体の芯が冷えている。その公園には猫一匹すらいない。草むらで名前も知らない虫が鳴いている。どうやら大勢いるらしい。

 ブランコの足元には今朝降っていた雨が溜まっている。水溜りを踏まないようにしてブランコを少し手繰り寄せてそこに座る。ジーンズの向こう側が少しだけ湿っているのを感じる。鉄の匂い。ゆっくりと身体を揺らす。揺れたまま手に持った缶ビールを口に運ぶ。昔は嫌いだった、にがい味。生温いそれは食道を通り、胃の中へ消えていく。

 砂利は水分を含んでいてがさがさと音を立てる。ずっと前の泥団子の感触。人のいない公園の砂場のにおい。赤色のシャベル。くしゃりと踏んだ、泥団子。

 コンクリートと塀は足音を増幅させる。遠くから救急車のサイレン。ゴミ捨て場には明日の可燃ごみが転がっている。

 テーマパークで買った熊のキャラクターのマグカップに水をそそぐ。東京の水道水は不味い。硬い、人の味がする。

 公園には肌寒い風が吹き込んでいる。レースのカーテンはそれを受けて揺れている。レースの向こうの白い光はいつもより少し眩しく、網膜を通り、脳のどこかを刺激する。瞼の裏は毛細血管。とくとくと流れる。

 いつも図書室の奥の人の通らない階段の踊り場で会っていた友人を思い出す。彼女はいつも長袖のシャツを着ていた。そのシャツの下に何があったのか、今はもう分からない。

 身体は砂漠で使う、革袋。血中アルコール濃度は高く、脂の浮いた海に思考は漂う。

からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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