二重跳びと柿の種   (作 丸野まる)


「付き合うならピーナッツの好きな人になさい。」

と母に言われたのは、私が中学生の頃だった。


  たしか、お正月の時だったと思う。
  やることも特にない昼さがり、こたつにあたって2人で柿ピーを食べているときに、急に言われたのだった。
  いつもの母にしてはなんだか上品な言い方だったので、記憶に残っている。

「ピーナッツ?」
「そう。アンタは柿の種ばっかり食べるから、ピーナッツの好きな人なら喧嘩にならないでしょ?」
  そう言いながら、母は柿の種をひとつ、つまんだ。母も私も、柿ピーでは柿の種ばかり食べる。
「お父さんはピーナッツ好きなの?」
「お父さんはどっちも好き。でも、お母さんと食べるときはピーナッツを多めに食べてくれるのよ。」
それが愛なのよ。と言いながら母は柿の種を口に放り込んだ。


「ふぅん。」
私の話を聞いていた陽介は、ぼんやりとした相槌を打って、柿の種をひとつ口に運んだ。
  陽介と私は今、一緒に暮らしている。
  母のアドバイスも虚しく、私たちは柿ピーの柿の種が好きなもの同士で付き合っているのだった。
「でもさ、今は柿の種だけのもあるし、問題ないんじゃない?」
私たちが食べているのは、ピーナッツなしの柿ピーだ。袋の中は全部柿の種で、ピーナッツは入っていない。母とこたつで食べていた頃は、そういう商品はまだ売っていなかったな、と思った。
「俺さ、小さい頃、柿の種植えたら柿がなるんだと思ってた。」
つまんだ柿の種を指でくるくると回しながら陽介が言う。
「私もそう思ってた。」
「小学校の頃、冬休みの自由研究で庭に埋めたんだけどさ、あたりまえだけど、芽、出なかった。」
「じゃあその自由研究、どうしたの。」
「どうしたっけ。」
覚えてないな、と言いながら陽介は新しい柿の種の袋を開ける。ティッシュを敷いて、その上に柿の種をザラザラ拡げて食べるのが2人のお約束になっていた。
「ピーナッツは、植えたらなるのかな。」
「ピーナッツはピーナッツだから、なるんじゃない。」
「あ、でも」
煎ってあるんじゃなかったっけ。
と私が言ったところで、台所からピーーと音がする。
「はいはい。」
と言いながら、陽介がお茶を淹れに行く。こういう時、率先してお茶を淹れてくれるのも愛だよね、となんとなく、母への言い訳のように思う。

  しばらくして、2つのマグカップを持った陽介が戻ってきた。
   陽介は私の前にマグカップを置くとおもむろに、
「二重飛び、跳べる?縄跳びの。」
と聞いてきた。急な質問に私は内心驚きながら、
「跳べるよ、一回だけなら。連続で何回も跳ぶのは無理だけど。」
と答えた。
「逆上がりは?」
「え?」
「できる?」
いつから運動の話になったんだっけ、と思いながら、妙に真剣な顔をしている陽介に気圧されて答える。
「小学校の時はできたよ。今はわかんないけど。」
それを聞いた陽介は「そっか。」と言った。心の緊張が緩んだみたいな表情だった。
「俺さ、どっちもできないんだ。」
「へ」
「二重跳びと逆上がり。」
「そうなんだ。」
「だからさ、どっちもできる子と付き合おうって思ってた。小学校のとき。」
「そっか。」
付き合う人の話が、まだ続いていたのか、と思いながら相槌を打った。私も妙に緊張していたのだった。
  陽介は「ふふふ」と照れたように笑って、黙った。

  それから2人で黙ってお茶を飲んだ。
  そしてときどき、柿の種を食べた。
  二重跳びと逆上がりができる私は、二重跳びと逆上がりは出来ないけど、優しい陽介と暮らしている。
  陽介は柿の種の最後の一粒を、いつも私に譲ってくれる。


からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

0コメント

  • 1000 / 1000