森林公園へとピクニックに出かける。【デパーゼ vol.35】


ふと目が覚めたのが先か、

それとも文絵の声によって起こされたのか、

よくはわからなかった。 


「ねぇ。起きてる!」
 


再び、階下から文絵の声がした。
 

起きている。うん、起きているよ。
 

僕は机に突っ伏した状態から身を起こすと窓の外を眺めた。
 


向かいのベランダに干された洗濯物が風に揺れていた。
 

その光景がとても愛おしく感じられた。
 


一体、僕に、何が起きたのだろうか。 


「ねぇ、何時だと思っているの?」
 


文絵が呼んでいる。
 

そろそろ、行かないと。
 

部屋の時計を見ると十時半過ぎだった。
 


昨夜、そういえば僕らは喧嘩した。

些細な、取るに足らない、ことで。


そして、僕は夢を見たのだ、夜に。
 


それをからだのうちに今なお強く感じている。
 


階段を上がってくる音が近づいてくる。 


「起きているんなら、返事しなよ。」
 


振り返ると、文絵がこちらを見ていた。
 


僕は、泣きそうになった。
 

文絵の気質が移ったのだろうか。 


「どうしたのよ?」
 


文絵は、何もしゃべらない僕を見て、きょとんとした。
 


僕はようやく、 

「ううん。何でも、ないんだ。」
 

と返した声は、上ずっていた。
 


文絵は、 

「はい。行くわよ。」
 

と、手をこちらに差し出した。 


「どこに?」 

「ピクニックよ。」
 


そうだった。
 

僕たちは今日、ピクニックに行くのだった。 


「はい。手。」
 


僕は、文絵の手に自分の手を乗せた。 


 ✳

 


ピクニック日和である。
 

昨日、雨が降ったせいか空は開きなおったように青く、のんびりと雲が流れていた。

そして何より、あたりは健やかな空気に満ちていた。


このまま季節が僕たちの前から去りいつまでもこんな日が続けばいいとすら思った。
 


僕たちは自転車を二人乗りして出かけた。

向かった先は、

家から数キロほど離れた丘の上にある、

ゴルフ場のようにだったぴろい芝生の森林公園だ。


のどかなところである。


公園の一角に、

金網で仕切られた米軍の居住地があり、

その敷地に蔦の這う観覧席があった。


そこに以前競馬場があったためである。
 


いつからかその高台にある観覧席は、

馬のレースの代わりに、

そっと僕たちの町を見守ることになった。
 


僕たちは風のように港に沿った山下公園を越え元町の谷戸坂を前にすると自転車を降りた。

あまりに坂がきついためである。
 


坂を上がっているとき文絵は口笛を吹いていた。
 


坂の途中、道を遮るような具合に樹が生えていたため、ときおり道路へ降りた。
 


車が僕らのそばを過ぎていった。
 

坂道を上り、交番のある丁字路を右に折れると、再び自転車に乗った。
 

そこから道はゆるやかなカーブが始まる。
 


道中には、


幾つものカフェ、

レストラン、

ギャラリー、

外人墓地、

バス停、

公園、

アメリカンスクール、

お嬢様が通う名門女子校と普通の私立の女子校、

豪邸とにかく豪邸、

垢抜けたデザインの家、

北欧を思わせる家、

絵本からくり抜いたような可愛い家、

数寄屋造の家、

つまり、山の手のあらゆる家がある。
 


その道を過ぎると、

突然雰囲気が変わり、

商店街の通りになる。
 


その商店街を抜けると緑の多い住宅地になる。
 


森林公園はその住宅地の右手に隣あうようにしてあった。
 


やがて、

公園の入り口に着くと、

自転車を駐車場の隅に留めてその中へと歩んだ。  



作 青剣

絵 ヤマネコトリコ



からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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