もうすぐ夏が来る 【デパーゼ vol.29】


その夜、

屋根裏部屋に上がると、

一人の女の子がいた。
 


目を合わせると、

その子は部屋の隅に走り去るように消えた。
 


どこかで見たことがある、そう思っていると、思い出した。
 


とある縁で知り合った、「ヒカル」という名の女の子。
 

本当に、いい名前だ。
 

それだけで心に火が灯る。
 


ヒカルはよく僕になつき、たくさんの元気をくれた。

 


ある日、ヒカルは僕の耳に顔を寄せて、

 「ヒカルの秘密を教えるね。」
 

と言った。 


「ヒカルの誕生日はね、八月六日なんだ。」
 
 


僕は誕生日にワンピースのように丈の長いTシャツをプレゼントした。 


Tシャツには可愛らしいキノコの模様がプリントされていた。
 


ヒカルは素直に喜んだ。
 


ヒカルの母は恐縮してお礼を言ってくれた。
 


お礼を言うのは僕も一緒だった。

 


翌年、僕はまた、

ヒカルに何かを贈ろうかと思ったが、やめた。
 


贈れば、ヒカルは、僕を覚えたままでいてくれるだろう。
 


しかし、

贈らずに月日だけが過ぎてゆけば、

僕がいたことすら忘れてしまうに違いない。
 


それで、いいんだと、思った。
 


ヒカルの年頃は、何かをふと忘れてしまう頃合いだ。
 


僕は忘れ去られてしまう方が良かった。

 


大人になったヒカルに、
 

何て言葉をかけてあげればいいか、
 

僕にはわからなかった。

 




しかし。
 



その夏、ヒカルは死んだ。
 


命日は、八月九日だった。
 


あれから、一年と数日だけ、ヒカルは生きたのである。

 


もうすぐ夏が来る。
 


ヒカルの誕生日の夏だ。  



作 青剣

絵 ヤマネコトリコ


からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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