僕はさっきまで、少し。 【デパーゼ vol.23】


文絵のからだをほぐすと彼女の両耳を手のひらで包んだ。
 

こうしていると空気の音が聞こえてくる。
 


よく、渦を巻いた貝に耳を当てると、風の音が聞こえるのと一緒だ。
 


包み具合によって音の調節が出来るが、

どういった具合に包むかはそのときどきによって違う。


が、いつも何も考えずにそっと彼女に這わせている。


要するに手のひらを彼女にゆだねてしまうのだ。
 


そのようにして触れていると必ずといっていいほど眠りにおちる。
 


やがて、

文絵は薄くまぶたを開いたのち、

吃るような声を出した。 



「寝て、た。」
 



文絵は片手で目尻の涙をぬぐった。 


「今、すごく、心地いい。」 

「僕も。」
 


文絵は、僕の手に自分の手を、重ねた。 


「あったかい。」 

「文絵のもまじっているよ。」
 


文絵は、僕の手を自分の頰に当てた。


とても、強く。 


「僕は、自分のことがよくわからない。」 

「うん。」 

「でもおかげで、僕はさっきまで、少し文絵だった。」 

「少し、じゃないわ。」
 


僕たちはしばらく沈黙した。
 


そして、 


「そうだね。」
 


と、僕も、彼女も、答えた。   



作 青剣

絵 ヤマネコトリコ


からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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