書いたものを町のどこかに 【デパーゼvol.22】


その日の夕食後、

『運命の二人』を文絵のために朗読した。
 


一字一句、心を込めて、丁寧に読み上げた。
 


僕が朗読を終えると、
「よく、出来た話じゃない。」
 と、文絵は言った。


決して、褒め言葉としてではなく。 


「ねぇ。」 

「はい。」 

「私、運命って、全く信じていないんだけど。」 

「でも、書けたから、聞いてもらえばと思って。」 

「で。」 

「いや、別に。」

「それに、その話、矛盾してるわ。お互いが相手を訪ねて行ってしまったら、行き違いになるから永遠に会えないはずよね?」 

「そうかもしれない・・・。」 

「次、楽しみにしているわ。」 

「精進するよ。」
 


僕はそして、 

「これ、お願いしてもいいかな。」
 

と、『運命の二人』が書かれた原稿用紙をテーブルに置いた。
 


それは、文絵にその物語を町のどこかに隠してもらうお願い事である。
 


もちろん、

そんなことをしても、

いつ誰がそれを見つけるかはわからなかった。


場合によっては、

誰にも見つけられず、

書いた僕からも忘れ去られてしまうことが十分にあった。


しかしそれでも、

僕の書いたモノたちを町のどこかに潜ませたかったのである。 


「いいわよ。あなたがそれで満足するなら。」 

「ありがとう。」 

「お風呂入る。あとで、からだをほぐしてね。お話はもういいから。」 

「わかっている。」
 


文絵はその日、

三杯目の梅酒を飲み干すと、

お風呂場に行った。
 


僕は、食器を洗った。  



作 青剣

絵 ヤマネコトリコ


からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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