「運命の二人」 【デパーゼ vol.20】


『運命の二人』という物語を書いてみた。


 ♈

 


その世界では左右の眼で見える世界が違う。
 

一方は今暮らしている現実が、もう一方はその人の思い描く世界が見える。

当然、両眼を開けているとそのあまりのギャップに人は混乱する。


中には、それを面白がる奇人もいる。

が、大抵の人はどちらかの瞼を閉じて一方の世界だけに集中する。
 
 


この物語には男と女の主人公がそれぞれいる。

 

二人はその世界でそれぞれに大人になった。
 


生まれた町は同じだが、

育った環境が違っていたため、

一度も出会うことはなかった。


しかし、それでも二人を結びつけてしまうものがあった。


それは、二人の眼にそれぞれの姿が映っていたことである。
 


男の眼にはその女が。
 

女の眼にはその男が。

 


二人は自分の眼に映った相手の姿を見てこれまで生きてきた。

 


しかしそんなある日、

二人の眼が曇りだし、

徐々に相手がうすれてゆくのを感じた。


二人は、それぞれに、このままだと相手が消えてしまうだろうと思った。
 

その予感をとても悲しく思った。

 

そして、二人はそれぞれにその町の眼科に赴いた。
 
 


まず最初に訪れたのは男の方だった。
 


医師は一通り話を聞いてから、

男の眼を覗き込んだのち、

こう言った。 


「残念ながら、あなたの眼に映るその女性は間もなく消えてしまいます。女性のことだけではありません。今まで、その眼で世界を思い描くように見れたかもしれませんが、それも出来なくなるでしょう。歳をとると得てしてそうなります。まぁ、あまり悲嘆なさらないことです。当院では、その傾向を抑えるための処方箋はご用意しておりません。むしろ、この手のものにはお手上げして、見守るより他ありません。」
 


男は絶望した。 


「ただ、一つだけ、薬の代わりにお伝えすることがあります。それはとても大切なことなので聞き逃さないでください。」
 


男は落胆しながらも、 

「なんですか?」
 

と、尋ねた。 


「まもなく、その女性はあなたの眼から消えてしまいますが、最後にその女性が映ったとき、その背後にある景色を覚えておいてください。そこがどんな場所で、そこに何があり、どんな標識があるのかをちゃんと把握してください。」 

「はぁ・・・。」 

「そして、あなたはそこに行ってください。」 

「なぜ?」
「行けばわかります。」 

「?」 

「では、診察は終わりです。」
 


男は、医師の言葉を心に留めて帰っていった。

 


何日かが過ぎて女が同じ眼科を訪れた。
 

女は男と全く同じ事情を説明した。
 

医師は、さっそくその女の目を覗いた。

そして、その眼に映る相手の男を見たとき思わず微笑んでしまった。
 

その後、全く同じようなやり取りが生まれた。

 


女が去った後、医師は久しぶりに浮き浮きした。
 

まるで、自分が神様にでもなった、そんな気分であった。
 

事実、その日の全ての診察を終えると、男と女のカルテを自分のデスクにおいてぼんやりした。

二人のこれからの歩みを想像せずにはいられなかった。


ともすると、二人のめでたい席にお呼ばれするのではないかと、思った。

 

ある日、二人の眼からそれぞれの姿が消えた。
 

が、二人の前に本物の相手が現れた。
 


二人が恋におちるまでほとんど言葉はいらなかった。
 

そして両眼とも、目の前にあるものだけを見るようになった。


 ♈

 


この物語を書いたとき、ちょっと嬉しくなった。
 

あたかもその物語の眼科医のように。
 

しかし、少し時間が経つと、悲しくなった。
 


悲しみが嬉しさよりも勝った。
 


そんな、物語だと思う。   




作 青剣

絵 ヤマネコトリコ


からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

0コメント

  • 1000 / 1000