からだの中は夜の町 【デパーゼvol.5】


学校へと向かう途中、 

「昨日は、何か書けたの?」 

と、文絵は声を張り上げた。
 


僕はペダルを漕ぐことに精一杯で、

「え?」と聞き返すことしか出来なかった。
 


実を言うと、

僕らの町は坂ばかりで、

自転車で移動するには非常に不向きであった。 


「だから!何か、書けた?」 

「ああ。」
と、返事をして息を切らした。 


「ここは歩かせて。」と、僕は自転車を降りた。
 


文絵もさすがに急な坂だけあっていつも通り降りてくれる。
 

僕は自転車のハンドルを握って坂道を登りながら、昨日といっても、正確には今日なのだがと思った。 


「何を書いたの?」
 


夜の町に来た、少年について話すことにした。 


「ある男の子が、伝言を届けに来たんだ。」 

「伝言?どんな?」 

「夜の町に、不思議な女の子が来るっていう、伝言。」 

「何それ?」 

「僕も、よく、わからない。」 

「それで?」 

「それだけさ。ただ、その子はそのあと踊り出して、宙に浮いて消えちまうんだ。」 

「変なの。」 

「変だよ。」 

「たった、それだけ。」 

「うん。」 

「のんきなもんね。」
 


僕は何度、

「のんきなもんね。」と、

言われただろうか。
 


別段、反感などない。
 

それにしても、その坂道は、「のんき。」という形容詞がぴったりだった。


桜並木のトンネルが頭上を覆う、

公園内の坂道であるため、

あたりはいつも緑の空気で一杯だった。
 


僕は何気に、明け方に二人してここを通るのが好きだった。 


「で、どうするの?」 

「どうするって?」 

「続きよ。」 

「続きねぇ。どうしたもんかね。」 

「私に聞かれても。」 

「まぁ、そうだね。でもさ、いつも言っているように。」

「自分の意思ではどうすることも出来ない、ってやつ?」 

「まぁ、そうなんだ。」 

「じゃ、見守るってこと?」 

「そうだね。見守り、見届けるって、ことかな?」 

「いいわ。我慢比べみたいで。」 

「我慢比べ?」 

「そう。あなたはソレを見守り、私はあなたを見守る。二人で一緒に我慢比べ。どっちが先に根をあげるか。それか、どっちも根を上げずに、耐え続けるか。」
 


暖かいお言葉である。
 

僕たちはよく、学校までの道のりを、こんな風に話しあった。

学校に行くまでたいしてかからなかったが、僕が話せるものはもっと時間がかからなかった。
 

ただ、こうして文絵と話すことで、夜の町のことをあらためて実感することが出来た。 


「はい。漕いで。」
 


坂道をのぼりきると文絵は自転車に乗った。 


「OK!」
 


僕は自転車にまたがると漕ぎ出した。
 

そこから学校まで二百メートルにも満たないのだが、

その道中で、

何度子供たちに「あ、ホンマ先生だ!」と指差されただろうか。


おかげで学校では、本間先生は恋人とラブラブであるという噂でもちきりだったそうである。
 

ただ、彼女はそれに対して満更でもないのであった。  




                     作 青剣

絵 ヤマネコトリコ


からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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