神様の樹 13 【完】 (作 青剣)



「ネズミの手と猫の手の話は、知ってる?」  


カズが、

初めて神様の樹の下で語ったモノガタリは、

そのような問いかけから始まった。 


「知らない。」 

「たくさん歳をとるとね、首のあたりに、小さなネズミの手が生えてくるんだ。」  


イチはまるで眠る前に童話を聞かされているような心持ちになった。 


「森の樹もたくさん歳をとると、猫の手が生えてくるんだ。」  


カズが突拍子もない嘘をついているのにも関わらず、

イチはそれを否定するどころか、

ワクワクしていた。 


「何、それ?それで?」 

「だから、とても歳をとった人がぼんやり森を歩いていると、たまに、そのネズミの手が猫の手にひっかかれることがあるんだって。」 


カズはそこで一呼吸入れた。 


「そうすると、ネズミの手と猫の手が戦うんだけど、そのときに、もしネズミの手の方が負けちゃうと、どうなると思う?」  

と、また問いかけてくる。 


「知らない。どうなるの?」  


カズは満面の笑みで、 

「その人はずっと、森からぬけ出せなくなるんだ。」

と答えた。 


「ずっと?」 

「うん、ずっと。永遠。」 


カズは何もかもを知っていた。 


 


あれ以来、

神様の樹の下を通るたびに、

どちらかが何かを語った。  


ただ、

カズが初めて話してくれたようなモノガタリを、

イチは作ることが出来なかった。


だから代わりにイチは自分の気持ちを吐露した。  


イチが初めて神様の樹に語ったのは、 

「お母さんといたくない。」

というものだった。  


カズはそれを黙って聞いてくれた。  


イチは、 

「こんなことでもいいの?」

と、不安になった。  


カズは「いいよ。」と答えた。 


「これ、モノガタリ、じゃないけど・・・。」 

「でも、欠片だから、いつか、モノガタリになるための。」  


イチは、

カズのいう意味がよくわからなかったが、

なぜか許されているような心地になった。


以来、イチは神様の樹に向けていろいろな気持ちを告げてきた。  


だが、

いつからか、

イチはそれをしなくなってしまった。  


これといった明確な理由もなく、

ただ、そうすることを忘れてしまったのだ。  


最初にカズと交わした約束を破ったのはイチだった。  


きっと、歳をとることばかりに、気をとられ過ぎてしまったのだ。  


今、こうして神様の樹に手を当てて、自分は何を語ればいいのかわからなかった。  


カズのモノガタリをくつがえせるほどのモノをイチには語ることが出来なかった。  


(了)



作  せいけん

絵  鈴吉



からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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