神様の樹 12 (作 青剣)


まぶたをこすると涙が乾いていた。  

カズを見送った頃を追想するといつも心がなごんだ。  


イチはベッドから出ると窓の外に目をやった。

家の敷地内にある離れが見えた。

二人がよく一緒に過ごした場所だ。  


離れは、深い眠りについているかのようであった。  


夜が、ふけた頃。  


イチはカズと過ごした森へ出かけた。  


そして、その森の中にある一本の樹の前で立ち止まった。  


イチはそれに手を当てた。  


それは二人にとってとても意味のある樹であった。  


ある日カズが、 

「これは神様の樹。」と、

名付けたからである。  


イチは初め、

どうしてそれが神様の樹であるかわからず、

ぽかんとした。  


だからすぐに、 

「どうして?」と、

たずねた。  


するとカズはすぐに答えた。 


「そんなこともわからないの。」  


カズは少し、意地悪な笑みを浮かべた。 


「今、名付けたから。」  


イチは、

ああ、

と唸った。  


名付けてしまえば理由などいらない。  

その瞬間からそれはその名のモノになってしまう。  


カズは、イチにされたことを、この世にあるモノに施したのである。 


 


「でもね。この樹にしようと思った、理由もあるんだ。」  


イチは少し驚いた。

単なる思いつきで、その樹に命名したと思ったからである。 


「ボクはね、この森の樹たち、みんなと話したんだよ。」  


カズは自分といないときはいつもここで一人過ごしていたのだろう。 


「そしたら、この樹が一番、神様として相応しかったんだ。」  


イチは首を傾げながら、 

「どこらへんが。」  

と、尋ねた。 


「それは、秘密。」  

と、カズは嬉しそうに笑った。 


「でも代わりに、神様の樹のことを教えてあげるよ。」 

「・・・。」 

「神様の樹はね、いつもモノガタリを求めているんだ。」 

「モノガタリ、どんな?」 

「どんなモノガタリでも、いいんだ。」

 「ふ〜ん。」 

「だからここにきたら、神様の樹に手を当ててね、モノガタリを聞かせてあげるんだよ。」

 「なんだか、お供え物、するみたい。」 

「そうだね。」

 「でも、しなかったら?」 

「ダメだよ、それは。絶対に。」

 「どうして?今まではしてこなかったじゃない。」 

「今まではそうだけど。これからはしないとけない。」 

「なんでよ?」

 「そう決めたから。」 


 カズはそう言うと神様の樹に手を当てた。 


「ボクたちはここで、たくさんお話したね。」 

「それが?」 

「それを森の外へと持ちだし過ぎたんだ。」  


イチは、

どう答えればいいのか、

よくわからなかった。 


「だから、今度はぼくたちがお返しをする番なんだよ。」 

「・・・。」 

「それで、保つことが、出来るんだ。」  


保つこと。


イチはその言葉を心の中で唱えた。 


「これから、神様の樹の下を通るときは、モノガタリを聞かせるんだよ、いい?」  


イチはそのとき頷きはしなかったが、 

「じゃ、最初はカズが話してよ。いい出しっぺなんだから。」  

と、答えた。  


カズは沈黙したのち、 

「いいよ。」と、

微笑んだ。 


「ボクが話す。そしたら次は、姉さんの番だよ。」  


イチもまたしばらく沈黙した。  


そして、イチは頷いた。  


二人はこうして神様の樹の前でモノガタリを語りあう約束を交わした。 





作  せいけん

絵  鈴吉


からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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