神様の樹 8 (作 青剣)


二人の物語の幕開けはイチが小学生になってからのことである。  

イチは学校から帰ると離れで宿題をしたり少女漫画を読んだりして過ごした。

特にすることがなくなると、クラスの生徒たちの顔を思い浮かべて彼らと会話した。


ただ、あまりのめり込まないように気をつけた。  

他日、彼らと学校で会話すると齟齬が生まれるからであった。  


しかしイチは、

空想の中の彼らの発言をより身近に感じて、

ますます空想に耽った。  


やがて離れで過ごすうちに誰かに見守られているように感じることがあった。  


ある夏の終わり、

庭の隅からこちらを見つめてくるような視線を感じ、

その日の暮れた先へ目を向けるとぼんやりとした影があった。  


影は、

初めて会うのにどこかで会ったような気がする、

そんな印象を与える少年だった。


小学校では見かけない顔だった。  


イチは、その少年と話してみたくなった。  


そしてふと、 

「いつも、わたしのこと見てたの、あなた?」  

と声をかけた。  


少年は「うん。」と素直に答えた。  


初めて聞く声にもかかわらず、肌に馴染み、なぜか宙に浮くような心地がした。  


それからは、

誰かが自分にのりうつるように、

イチは口を開いた。  


それは、一つの儀式のようでもあった。 


「君、どこから来たの?」  


少年はうしろを指差し、 


「向こう。」  


と答えた。 


「学校?」 

「違うよ。」 

「じゃ。どこ?」 

「学校が出来る、ずっと、ずっと前。」  


イチは来たところを訪ねたのにも関わらず、

ずっと前と答えたことに違和感を覚えなかった。 


「そうなんだ。」 

「そう。」 

「名前は?」 

「ないよ。」 

「ないんだ。」 

「ないよ、ボクラには。」 

「つけてあげるよ。」 

「どうして?」 

「つけたいから。」 

「・・・。」 

「いいでしょう?」

 「・・・。」 

「ダメなの?」 

「・・・向こうに帰れなくなる。」

「向こうって?」 

「向こうは向こう。」 

「でも、こっちへ来たんだよ。」 

「・・・。」 

「ねぇ、いいでしょう?」 

「・・・、いいけど・・・。」 

「いいけど、何?」 

「・・・、なんでもない。」 


その子はそう言って首を横に振った。  


イチはそれ以上問い詰めず、 「君は、今日からカズ!」  と、その場で名付けた。 



カズという名の由来は、

イチが生まれるずっと前に他界した、

母方の祖父神村一樹の「一」から取ったものである。


イチにとって祖父の名は、

あの世とこの世を少しでもくっつけようとするおまじないでもあり、

イチはよく呪文のように意味もなく唱えていた。  


だからもし、

弟がこの世に生まれてくることがあれば、

カズと呼ぼうと前々から思っていた。 


「カズ・・・、カズ・・・。」  


少年は口の中で何度か名前を転がした。  


そして嬉しそうに答えた。 


「なんだか、いい、名前だね。」  


イチはカズが喜んでくれたのが嬉しくて、 

「こっちに来たら。」  

と、カズをこちらへ招いた。  


そしてカズは縁側へとやって来た。  


その後、カズは誰もいないところに、ふと現れた。  


放課後の教室、学校の帰り道、森の中。  


イチはカズが来る手前なんとなくわかった。  


そろそろかなと思っていると、

「姉さん。」といつの間にか隣にカズがいて、

イチの描いている絵を見ていることがあった。 


「姉さんの絵、よく、わからないね。」  


カズは言いたいことをちゃんと言う、

やや生意気な子に育ったため、

カズの言葉に触れてイチは痛みを覚えることがあった。


だからたまに、イチはカズに怒った。  


イチは、怒ることで姉でいられた。  


ただ、

二人の関係は、

絶えずお互いの上下関係を変えるシーソーと同じであった。   



作  せいけん

絵  鈴吉



からだ部

からだ部とは、「からだを感じる」をコンセプトに、部員たちがモノをつくり発信する部活道である。 主な活動は、 1)メディア 2)ワークショップ 3)企画 の三つになります。

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